ⓔコラム11-5-1 “Treat to Target”ストラテジー

 近年,Crohn病を含む炎症性腸疾患の治療戦略として,“Treat to Target”という概念が提唱されている.従来の臨床的寛解に加え,内視鏡的治癒を治療目標とし,「適切なタイミング」で評価を行い,治療目標 (内視鏡的治癒) に到達していなければ,「治療強化」を行い,一方,治療目標に到達した場合でも,定期的にその目標が維持されているかモニタリング (主に画像検査) を行うという概念である.そのような治療戦略により,患者の長期予後が改善されることが期待される.

 「治療を開始したら内視鏡検査で評価をするのは当然ではないか」あるいは,「定期的にモニタリング (画像検査) を行うのは当然ではないか」と,特段,新しい概念と受け取らない医師も少なくないと思われるが,そのような「常識」が,必ずしも欧米などでは常識ではなかったということを意味する.一方で,特に新しい考え方としては,治療目標に達していない場合 (たとえ臨床的には寛解であっても),「治療強化」が考慮されるという点にある.Crohn病の場合,内視鏡的治癒に到達していない患者の多くにおいて,病変が進行し,最終的には外科手術が必要となることが明らかになっている.

 ここでいくつかの疑問や課題が残る.

1.治療開始 (または強化) における評価のタイミングはいつであろうか.あまり早期であれば,当然,潰瘍等の病変は残存し,1年をこえるようであれば,病変が進行してしまうリスクがあるように思われる.

2.特に小腸病変に対し,「治療目標」到達の評価 (画像検査) のモダリティは何が適切であろうか.施設のアベイラビリティや,特に術後などの患者の病状のため,小腸内視鏡検査が困難な場合,MRIなどの他の画像検査や,糞便マーカーなどによる代替は適切であろうか.

3.内視鏡的治癒が到達されない場合における治療強化の有用性 (患者の予後の改善) は明らかであろうか.それは,治療の安全性やコストとのバランスが取れたものであろうか.

4.「治療強化」とは具体的には何であろうか.既存治療の最適化,新規薬剤の追加,新規薬剤への切替,場合によっては,外科治療であろうか.

 Crohn病を含む炎症性腸疾患の治療はますます多様になっており,このような新しい治療戦略の概念には,おおむね同意できると思われるが,個別の戦略については,割付試験ないしは大規模なレジストリー研究などでの検討が待たれる.

〔渡辺 守・長堀正和〕